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  3. 病気の原因(化学物質・病原微生物)

1.化学物質

文明の進歩、とりわけ産業革命以降の科学技術の進歩は、自然のままでは存在しなかった人工的産物を産みだし、生産技術の開発により工場では大量生産がなされるようになりました。また医療でも科学技術により多様な薬剤が開発されました。これらは人類にはかりしれない恩恵を与えると同時に、たとえば大気汚染、工場廃液による公害、また医療社会における医原病など、その副作用ともいうべき弊害を生みだしてきました。科学技術は人類には良悪の二面性をもつといえるでしょう。

化学物質による障害を、古典的化学物質による障害と公害、そして医原病といった観点から概説します。

古典的化学物質による障害

  1. 腐食毒

    組織に親和性をもつ物質が組織に接触すると、局所に化学反応と炎症反応が起こります。これらの物質は腐食剤または腐食毒とよばれます。腐食による反応は経度であれば、知覚刺激と発赤にとどまりますが、高度となるとさまざまな炎症反応を呈します。さらに強い腐食反応では組織の壊死が短時間に生じます。これら物質には塩酸、硫酸、硝酸などの強酸、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムといった強アルカリが代表的なもので、これらを過失または自殺目的で嚥下すると、口腔、食道、胃の粘膜壁が腐食され、びらん、潰瘍、壊死を呈します。

    その他腐食剤としては、農薬のパラチオン昇汞(塩化第二水銀、HgCl2)がよく知られています。
    気体では病理標本の固定・保存に欠かせないホルマリンガス、戦時中に毒ガスとしてつくられたマスタードガス(イペリット)・サリンなどがあります。

  2. 中毒

    外来性の物質が体内に入り、組織または機能障害をもたらすときこの物質を毒物とよびます。毒物は気体、液体、個体のかたちで体内に入ります。少量でも毒性の強いものもあるし、少量では無害であっても多量の摂取や長期間にわたる摂取で体内に蓄積して毒性を示す場合もあります。毒物には生物によってつくられるものが数多く存在します。動物性毒素として、ふぐ毒(テトロドトキシン)と蛇毒が代表的なものとして知られ、ほかに蜂毒、クラゲ毒などがあります。植物性毒素としては筋弛緩剤として用いられるクラーレ、またキノコ毒トリカブト毒がよく知られています。

公害

産業革命以降、技術革新された生産過程で、また自動車などその産物の発生する有害物質の処理が放置されたために、人類をはじめ動植物の生活環境が汚染されてつつあります。この環境汚染の原因を公害といいます。公害がもたらすものとして、大気汚染、水質汚染があげられ、ほかに騒音や振動があります。

  1. 大気汚染

    大気中に人工的な汚染物質があり、それが住民に不快感をもたらしたり、生活に障害を与えたり、また疾病を引き起こしたりする場合を大気汚染といいます。
    汚染物質が発生源から大気中に出される場合は一次性といわれ、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)、一酸化窒素(NO)などがあげられます。また大気に排出された物質が、物質同士、または大気の成分と反応して形成されます。あるいは太陽エネルギーにより光反応して形成されるオゾン(O3)などの光化学オキシダントは二次性とよばれ、自動車の排気ガスによるスモッグはこれに入ります。自動車の排気ガスとしては、二酸化硫黄および二酸化窒素が知られ、二酸化硫黄は規制により減少しましたが、二酸化窒素汚染は依然問題となっています。これら大気汚染は慢性呼吸器疾患を起こし、喘息などが起こります。

    1960年頃から三重県四日市市に多発した喘息様発作は、四日市喘息と呼ばれました。石油コンビナートから排出された硫黄化合物、炭化水素、硫酸ミストなどの大気汚染が原因とわかり、社会問題となりました。
    さらに、職業病としての塵肺症があります。炭鉱や鉱山または石工場などでこまかい粉塵を長期間にわたり吸気することにより、粉塵が肺内や肺門リンパ節に沈着し、炎症反応などを起こすもので、塵肺症といいます。炭粉症は炭坑夫また喫煙者にみられます。非結晶珪素の吸気により珪肺症(silicosis)がみられ、肺結核と類似した肉芽腫性の慢性炎症をきたします。

    石綿(アスベスト)により、悪性中皮腫とよばれる胸膜、腹膜の悪性腫瘍が発生することがよく知られています。
    たばこ(煙草)はニコチンと一酸化炭素による障害に加え、肺癌、口腔癌、食道癌の発生が多いことが知られ、また妊婦の喫煙は奇形児の発生頻度を高めます。

  2. 水質汚染

    産業廃棄物による水質汚染が注目されます。

    1. 水銀:水俣病としてわたしたちの国でもっとも代表的な公害であり、1953年頃、熊本県水俣市に患者が発生、1965年には同様の発生が新潟県阿賀野川下流域でもみられました。有機水銀であるアルキル水銀が工場排水として河川に流入し、海水を汚染し水銀が魚体内に濃縮され、魚を食していた漁民に水銀中毒が発症しました。知覚障害、震戦、不随運動、狂騒状態など中枢神経障害を示しました。

    2. カドミウム:カドミウム中毒は合金製造、メッキ工、電気器具製造工などにみられ、経口また経気的に体内に入ったカドミウムにより起こります。腎障害、胃腸障害、貧血、全身衰弱、また高度の骨軟化症などを呈します。昭和20年代に富山県神通川流域に発生した”イタイイタイ病”は、カドミウムにおる慢性中毒の可能性が高いとされており、脆弱となった骨の骨折による疼痛を訴えながら衰弱していくので、この病名がつけられました。

    3. ヒ素:ヒ素化合物が経気、経口的に体内に入って中毒が起こります。塗料、ガラス製造、冶金工、蓄電池製造業などにみられ、家庭では殺鼠剤の誤飲や自殺目的使用で発生します。また食品への混入による中毒死としては、1955年のヒ素ミルク事件が知られ、患者総数1万名以上、死者130人にのぼりました。
      急性中毒症は腹痛、嘔吐、下痢といった消化器症状、無尿、血尿といった腎症状、痙攣、昏睡といった神経症状があります。慢性中毒では色素沈着、角化など黒皮症、多発性神経炎、貧血などがみられます。

環境ホルモン(内分泌かく乱物質)

プラスチックや農薬に含まれ、生体内のホルモンのように作用して、生殖や性の発達を攪乱する化学物質のことです。ダイオキシンPCBDDTなど多数の物質が知られています。血液中のホルモンは機能を果たす細胞の受容体(レセプター)に結びつきます。環境ホルモンはあたかも本来のホルモンのように細胞に結びつき、ホルモンのバランスを狂わせます。環境ホルモンについて、最初の報告(1992年)をした、スキャベクによると、過去50年間に精子数が半減、精液量も25%減少しているとのこと。ヒトのみならず、動物や魚類のオスのメス化も観察されるといいます。


医原病(iatrogenic disease)

医原病は、医師もしくは医療従事者による医療行為によって引き起こされる疾病のことで、薬剤の副作用による疾病のみにとどまらず、X線検査や予防接種といったもの、さらに院内感染も含まれます。

  1. 胎児への薬物障害

    妊婦が薬物を使用すると、感受性の高い胎児はより強く薬剤の影響を受けるし、臓器形成期には奇形の危険が高い。睡眠薬サリドマイドによるアザラシ肢症は有名です。

  2. 造血器の薬物障害

    骨髄ではたえず新しい血球が産生されており、薬剤に対する感受性が高い。造血障害をもたらす薬剤の種類は多く、消炎鎮痛剤のインドメタシン、コルヒチン、抗生物質のクロラムフェニコールなどが知られています。

  3. 肝臓の薬物障害

    薬物性肝障害として知られ、ヒドラジッド、サルバルサン、クロールプロマジンなど多数の薬剤が肝組織を障害することで知られています。

  4. 腎臓の薬物障害

    腎の代謝の最終産物が排泄される臓器であり、薬物も腎を通過するので薬剤の影響を受けやすい。水銀利尿薬、ヒドラジンやペニシリン、カナマイシンなど抗生物質が腎組織を障害するものとして知られています。

  5. 肺の薬物障害

    ブレオマイシンなど抗癌剤による肺炎、アスピリン過敏症による喘息などがあります。

  6. 神経系に対する薬物障害

    坑下痢剤であったキノホルムの長期かつ多量の投与により、スモン(SMON)が発生しました。スモンは亜急性脊髄視神経障害(subacute myelo-optico-neuropathy)の頭文字をとって名づけられました。腹痛や足底に始まる独特な神経症状を特徴とします。

  7. 放射線治療による障害

    悪性腫瘍の治療に用いられる放射線治療により、放射線肺炎、放射線腸炎、放射線膀胱炎、放射線皮膚炎などが生じます。また放射線治療後、たとえば子宮癌に対する放射線治療後、直腸癌といったあらたな癌の発生、いわゆる放射線誘発癌の発生が知られています。


2.病原微生物の病因作用

病原微生物

病原微生物には細菌(bacteria)、ウイルス(virus)、クラミジア、リケッチア、スピロヘータ、真菌(fungi)、原虫(protozoa)などがあります。

細菌は病原微生物の代表的存在です。グラム陽性菌と陰性菌に大別されます。ブドウ球菌、連鎖球菌、肺炎双球菌、淋菌、髄膜炎菌、ジフテリア菌、ボツリヌス菌、赤痢菌、コレラ菌、サルモネラ菌、病原性大腸菌、結核菌、癩(らい)菌など多数の菌が病原菌として知られています。

ウイルスは病原微生物としては最小のもので、DNAまたはRNA核酸をもち、エネルギー産生ができず、エネルギーはすべて宿主細胞から得ます。インフルエンザ、日本脳炎、麻疹、風疹、おたふくカゼ、帯状疱疹、ウイルス性肝炎など多種疾患の原因となります。また、エイズの原因として知られ、また癌を起こすことでも重要な微生物です。

クラミジアは最小の細菌で細胞内に寄生します。眼病のトラコーマ、性感染症(sexually transmitted disease:STD)である鼠径リンパ肉芽腫を起こすことで知られていましたが、近年はSTDである非淋菌性尿道炎や子宮頸部炎の原因として注目されています。

リケッチアは、ダニにより媒介される恙虫(ツツガムシ)病、また発疹チフスを起こすことで知られています。

スピロヘータは長いラセン菌で、梅毒の原因となります。

プリオン(prion)は核酸を持たずに増殖する蛋白質粒子からなる病原体で、ヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病〔CJD、いわゆる狂牛病(牛海綿状脳症:bovine spongiform encephalopathy,BSE)〕の原因として注目されています。

真菌(カビ)は皮膚をおかす皮膚真菌症と、臓器をおかす深部真菌症に分けられ、カンジダ、アスペルギルス、クリプトコッカス、ムコールなどが、わたしたちの国では代表的なものです。

原虫は原生動物に属し、赤痢アメーバによるアメーバ赤痢、トキソプラズマ症、熱帯病でよく知られるマラリア、またSTDの膣トリコモナス症も原虫疾患です。

感染

感染(infection)とは、病原微生物(病原体)が生体に侵入し、生体内で定着し増殖することをいいます。感染症とは、感染により病変が形成されたり、症状が発現(発病)した場合をいいます。感染症は、病原体の増殖と毒素ないし代謝産物の産生により起こりますが、これにより宿主の開始(発病)までの時間は潜伏期(latent period)とよばれます。

病原体による感染成立には、

  1. 侵入
  2. 宿主内での定着
  3. 毒性の発揮
といった三つの要因が考えられます。しかし感染と発病は必ずしも一致せず、感染があるにもかかわらず発病しない場合を不顕性感染とよびます。人から人へと、あるいは汚染した水や昆虫などを媒介して感染し流行するのを伝染病とよびます。感染症の外因としての特徴は、他の物理・科学的な外因と異なって、病原体が人体に侵入してから増殖を続けることであり、これによって病変は拡大し進展していきます。

感染症による障害は、病原体の数量、毒力に比例して強くなり、宿主の抵抗力に比例して抑制されます。ほかに病原体の侵入門戸や侵入方法によって影響を受けます。2種類以上の病原体が同時に感染するのを混合感染(mixed infection)といいます。感染症の状態に、あらたに別の病原体の感染が加わることを二次感染(secondary infection)とよびます。
一つの感染症が治癒したのち、あらたに同じ感染が起こることを再感染とよびます。

感染症は病原性のある微生物により起こりますが、免疫能低下など宿主環境が変わることにより、病原性の低い微生物が感染症を引き起こすことがり、日和見感染とよばれます。抗生物質投与などで常在菌など感受性菌が著減あるいは消滅し、これに代わって抵抗菌、耐性菌など常時は少数菌であったものが繁殖して、細菌叢が変わる現象を菌交代現象とよびます。

病原体の侵入する経路を感染経路といいます。生体への伝播経路としては、空気、接触、経口、経皮、胎盤などがあげられます。ノミとか蚊といった伝染を媒介するものを媒介体(vector)とよびます。

空気伝染するもには麻疹、百日咳、インフルエンザ、おたふくカゼ、肺炎、肺結核などがあり、接触伝染は性感染症に代表され、経口伝染には腸チフス、赤痢、コレラ、またサルモネラやボツリヌスによる食中毒などがあり、経皮感染には媒介体により、蚊による日本脳炎、マラリア、フィラリア、ノミによるペスト、ダニによるツツガムシ病、野兎病などがあげられます。また経胎盤感染として母より胎児へ感染する先天性梅毒、風疹、トキソプラズマ症などがあげられます。

  1. 局所感染と全身感染
    1. 局所感染:病原体は、通常は局所感染を起こします。まず侵入局所で増殖し、生体はこれに対して炎症性反応で対抗し、症原体が広がるのを防ごうとします。炎症反応で病原体を抑え込むことができれば治癒に向かいますが、できなければ病原体はさらに組織内に広がり、さらに増殖し病変は進行します。病変は連続的に広がるほか、病原体が血管やリンパ管を介して遠隔部に運ばれ、そこで同じ病変を起こすことがあります。これを悪性腫瘍の場合と同様に転移(metastasis)とよびます。

    2. 全身感染:病原体が循環血内で増殖を続けると、全身感染を起こします。全身感染では肝、脾やリンパ節といった細網内皮系と免疫反応とで対応します。
      全身感染のとき、循環血液内で細菌やウイルスが増殖する状態をそれぞれ菌血症(bacteremia)、ウイルス血症(viremia)とよびます。化膿菌が循環して全身各所に化膿巣をつくる状態を膿血症(pyemia)といいます。
      菌血症で、宿主の免疫能など抵抗力が低下して、全身に化膿巣ができ感染症の症状が目立つとき、敗血症(sepsis)といいます。

  2. 日和見感染(opportunistic infection)

    抗癌剤、免疫抑制療法(移植に対して拒絶反応を起こさないように免疫機能を抑制します)、放射線治療(悪性腫瘍の治療など)などにより、全身免疫状態が低下し、感染症に罹患しやすい状態となり、健常者では感染が成立しない状態や病原微生物によって、感染症が生じることを日和見感染と呼びます。常時は少数であった腸内細菌や、病原性の弱い真菌やウイルスなどが感染して、病原性を発揮するようになります。また抗生物質の使用による細菌叢の乱れでも起こります。日和見感染を起こす病原体として、細菌では緑膿菌、プロテウス菌、セラチア菌、白色ブドウ状菌、真菌のカンジダ、アスペルギルス、ムコール、ウイルスのサイトメガロウイルス、ヘルペスウイルスなどがよく知られています。

    最近はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が院内感染として問題になっています。メチシリンは、耐性ブドウ球菌に有効なペニシリンとして開発されましたが、MRSAはほとんどの抗生物質に耐性を示し、バンコマイシンなど一部の抗菌薬が有効です。また、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)も院内感染が問題となっています。健常者腸内に存在しますが、抵抗力が弱った場合、尿路などに日和見感染を起こします。

    院内感染:病院に入院中の患者が、院内で新たな感染症に罹患すること。また医療従事者が職務中に感染症に罹患すること。院内では、患者また職員は院外に比べて感染の機会が多い。十分な院内感染予防対策が講じられなければなりません。

  3. 菌交代現象

    腸管内には常時細菌がおり、腸管内部環境の一部として均衡が保たれており、腸内細菌叢(フローラ)とよばれます。健康状態での常在菌は小腸上部では腸球菌、乳酸菌が知られており、小腸下部では大腸菌、大腸では大腸菌とグラム陰性菌が多い。しかし抗生物質や化学物質が長期間投与されると、常在菌で感受性のある菌が減少し、不感受性菌が増加してきます。これを菌交代現象とよびます。免疫能の低下した状態ではあらたな感染症となることがあり、菌交代症とよばれます。日和見感染と現象としてはよく似ていますが、日和見感染は抗生物質の使用とは無関係に起こります。しかし、弱毒菌が病原性を発揮する点で菌交代症と同様であり、混同して、あるいは同じ意味で使われることがあります。

動物寄生体

動物寄生体は従来から寄生虫とよばれてきたもので、蠕形(ぜんけい)動物としての
線虫類〔回虫、蟯虫(ぎょうちゅう)、アニサキスなど〕
吸虫類(日本住血吸虫、肝吸虫、肺吸虫など)
条虫類(広節裂頭条虫、無鉤条虫など)などと、
節足動物としての昆虫類(蚊、ノミ、シラミ)に分けられます。

いわゆる寄生虫の蠕形動物感染は、わたしたちの国では戦後、農作において人糞肥料から化学肥料への転換や衛星環境の整備により激減しましたが、いまだ開発途上国では多数の患者がいます。