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炎症の一般

炎症は私たちにとって、日ごろ経験する風邪(上気道炎)、下痢(腸炎)に始まり、肺炎、口内炎、食道炎、胃炎、虫垂炎、肝炎、膵炎、腎炎、膀胱炎など身近なものが多数含まれています。

炎症inflammation)とは、生体の細胞、組織に障害をもたらした種々の刺激や侵襲に対する生体の反応、そして障害された組織の修復過程です。炎症反応は、局所の毛細血管を中心とする微小循環系の循環障害に始まり、血漿の滲出、血球の遊出と局所の細胞増殖、ならびに修復からなっています。たとえば細菌に感染したとき、組織は一時発赤・腫脹しますが、局所では炎症反応としての滲出液によって細菌が洗い流され、食細胞により貪食され、こわれた組織や細菌は清掃され、線維芽細胞などの増生により修復へと向かっていきます。

古代ローマ時代にすでに炎症の概念があり、四大徴候をあげて定義づけられました。発赤rubor)、発熱calor)、腫脹tumor)、疼痛dolor)です。のちに機能障害functiolaesa)を加えて五大徴候とよばれます。この定義は現在でも正しく、炎症反応を理解するのに有用です。

近年の免疫学の著しい進歩によって、多くの炎症性反応は免疫応答と深くかかわっていることが理解されるようになりました。


1.炎症の原因

1.病原微生物の感染
ウイルス、リケッチア、スピロヘータ、細菌、原虫、真菌、寄生虫、昆虫などです。細菌とウイルスによる感染症がもっとも多い。細菌の傷害作用は、細菌が産生する外毒素(exotoxin)、菌体崩壊により遊離する内毒素(endotoxin)や、その代謝産物などによります。

2.物理的刺激
機械的障害、温熱や寒冷、放射線、電気刺激などがあります。

3.科学的刺激
強酸、強アルカリ、腐蝕毒などの化学物質によるもの。


2炎症の形態学的変化

組織の障害
炎症の原因の直接的作用や炎症反応によって細胞、組織は変性や壊死を生じます。

  1. 原因の直接障害によるもの
  2. 炎症性反応において生ずる循環障害(虚血)によるもの
  3. 免疫的学的機構によるもの
などがあります。
(例:ある種の細菌やウイルスは細胞内で増殖し、細胞の変性・壊死を生じます。ウイルス性肝炎においてウイルスが肝細胞で増殖し、細胞性免疫が働くことによって細胞壊死を起こします。四塩化炭素は肝細胞の変性・壊死を起こします。)

循環障害および滲出機転
炎症性刺激が働くと血管運動神経が刺激され、ごく短い一過性の細動脈の血管収縮が起こり、血行が静止し、虚血となり組織は蒼白となります(第1相)。
ついで局所の細動脈が拡張し、毛細血管に多量の血液が供給されるため血量が増大、すなわち動脈性充血(炎症性充血)を生じます(第2相)。これが発赤です。

さらに毛細血管の透過性が亢進し、血漿蛋白成分の滲出が生じます。その結果、組織液の浸透圧は亢進します。また拡張による毛細血管静水圧の上昇などが起こり、毛細血管から血清が滲出して組織内に貯留します。これを炎症性水腫浮腫)といいます。滲出液により障害因子が希釈され、毒素は中和されます。ついで、内皮細胞間から血球の血管外への遊出が始まります。これを細胞滲出といい、血球成分としては白血球がまず滲出し、遅れて単球、リンパ球も血管外に遊出します。この遊出した白血球は、組織障害の強い部分に遊走。集簇します。
とくに、好中球(多核白血球)が多量に滲出することを化膿といいます。白血球は細菌類に対して食作用を示します。白血球浸潤は、急性炎症におけるもっとも重要な防御反応です。

1)炎症細胞
炎症に関与する細胞として、流出中には白血球(好中球、好酸球、好塩基球、単球、リンパ球)、組織内には肥満細胞と組織球があります。

  1. 好中球
    10~12μmで分葉した核を持ちます。白血球は血管内皮細胞へ付着し、内皮細胞間隙からアメーバ様に出てきます。炎症で最初に遊走してくる細胞です。貪食作用〔小(貪)食細胞〕のほか、炎症や免疫の調節を行います。

  2. 好酸球
    好中球大の大きさで、細胞体内に赤色(HE染色)顆粒をもちます。アレルギー反応や寄生虫疾患で多い。

  3. 好塩基球、肥満細胞
    肥満細胞は粘膜や結合組織内に多く存在し、好塩基球は流血中に存在します。両者は細胞表面にIgE(免疫グロブリンE)対するレセプターをもち、抗原刺激に対して細胞内顆粒(ヒスタミンなど)を放出します。

  4. 単球、組織球
    単球は白血球の一種で、環境により著しくその形態を変えます。食作用を有し、マクロファージ(大食細胞)や組織球ともよばれます。異物を貪食(清掃作用)します。また免疫作用や抗腫瘍など多彩な作用をもちます。

  5. リンパ球
    細胞体に著しい小型円形細胞(5~8μm)です。T細胞とB細胞、またナルセル(null cell)に分かれます。T細胞はさらにヘルパー細胞、サプレッサー細胞などに分かれ、炎症反応や免疫反応に役割を果たします。B細胞は分化して形質細胞となり、抗体を産生する細胞となります。

2)滲出反応の伝達物質

急性炎症反応に際して、刺激を受けた細胞やこわれた細胞から種々の活性物質が分泌、放出されます。

  1. ヒスタミンhistamine
    主として肥満細胞に、また好塩基球にも保有されています。血圧降下作用と毛細血管透過性亢進作用が著しい。機械的刺激や紫外線といった物理的刺激、細菌毒素や蛋白分解酵素といった科学的刺激、またIgEで感作された肥満細胞への抗原刺激といった免疫的刺激で分泌されます。類似の物質としてセロトニンがあります。セロトニンは血小板にあり、逆に血管収縮、血圧上昇に働いて調節します。

  2. ブラジキニンbradykinin
    キニンの一種、カリクレイン(蛋白分解酵素の一種)の働きによりつくられます。血管透過性亢進のほか血管拡張、疼痛惹起などの作用があります。

  3. プロスタグランジンprostaglandin:PG)
    アラキドン酸から合成される物質です。PGE1、PGE2には血管透過性亢進や血管拡張作用、PGI2には血小板凝集の解離や血管平滑筋の弛緩などの作用があります。

組織の増生
炎症では、細胞傷害、循環障害および滲出に引き続いて血管、組織球、線維芽細胞など種々の細胞組織の増生が起こります。
滲出物の吸収、変性壊死に陥った細胞や組織の除去、消失した細胞・組織の補充を目的とする修復性変化です。繊維芽細胞の新生、毛細血管新生を伴う結合組織細胞〔線維芽細胞(fibroblast)〕の増殖といった、いわゆる炎症性肉芽inflammatory granula-tion)の形成が起こります。炎症を火事にたとえるなら、燃えるときが細胞傷害、滲出は消化で、肉芽形成は後片付けと再建に相当します。

炎症性肉芽には多核白血球、リンパ球、形質細胞、大単核細胞などの浸潤が強い。清掃除去などの修復に必要な酸素、エネルギーの運搬のために毛細血管の新生が起こります。マクロファージは壊れた血球や組織を貪食し、消化し、運び去ります。

線維芽細胞は膠原繊維をつくり、組織欠損部を補充していきます。肉芽組織は、線維芽細胞の産生した膠原繊維によりしだいに置換されます(線維化)。長時間経過した線維化組織は硝子化し、瘢痕scar)となり、炎症の治癒は終結します。

慢性炎症
炎症による障害の進行が穏やかで長く持続する場合を慢性炎症とよびます。これには結核や梅毒、癩など特殊な肉芽腫を形成するものが含まれます。循環障害、滲出は急性炎症に比べて軽い。浸出する細胞はリンパ球、単球、線維芽細胞といった急性炎症の組織増生で出現する細胞が多く、組織像も類似します。

増生  >  修復

炎症の分類

炎症の経過による分類

炎症の経過により急性亜急性慢性炎に分けます。その移行は連続的で、明瞭な区別はありません。


炎症の形態による分類

1.滲出性炎

滲出性変化を主とする炎症で、滲出液、滲出細胞および変性崩壊物の種類と量により病変は異なります。

1.漿液性炎(serous inflammation
滲出物の主成分に細胞成分を含まず、液性成分(漿液、主として血清成分)よりなります。すなわち炎症性浮腫を主体とします。
好発部位は、体腔、結合組織、肺胞などで、体腔(心嚢、胸腔、腹腔、脳室、関節腔、陰嚢腔)には漿液が貯留します。滲出液は水様透明で、右心不全などにより生じる漏出性に比し、比重は大きく蛋白質量が多い。漿液性炎は炎症が経度の場合や、他の滲出性炎(たとえば、線維素性炎や化膿性炎など)の初期・前駆状態として発生します。


2.カタル性炎(catarrhal inflammation
呼吸器(鼻腔、喉頭、気管支など)、消化管(口腔、胃腸管など)などの粘膜の炎症で、漿液の滲出のほか粘液分泌の亢進が著しく、粘液流出が多量で目立つ場合、カタル性炎といいます。肉眼的に粘膜面は充血、腫脹し、多量の粘液がみられます。組織学的には粘膜および粘膜下組織の充血、炎症性水腫、炎症細胞浸潤、粘液分泌細胞の粘液産生、分泌亢進像などがみられます。


3.線維素性炎(fibrinous inflammation
滲出液として線維素(フィブリンfibrin)の析出が顕著な炎症です。粘膜、漿膜、または肺胞などにみられます。滲出した線維素が漿膜面や粘膜面に膜状に付着したとき、偽膜炎pseudomembranous inflammation)といわれます。ジフテリアによる喉頭咽頭病変、大腸の偽膜炎など知られます。偽膜性大腸炎は薬剤性大腸炎の1つとして知られ、抗生物質投与中に起こり、原因はClostridium difficileです。肺炎では線維素性炎の典型例を示すことがあります。線維素性心外膜炎では析出した線維素が絨毛状を呈し、絨毛心cor villosum)といわれます。


4.化膿性炎(purulent or suppurative inflammation
滲出物が大量の好中球を含む炎症。組織内あるいは表面に膿汁(pus)、または膿性滲出物を滲出します。膿汁は無数の白血球や組織破砕物などからなっています。
原因菌はブドウ球菌、連鎖球菌、肺炎双球菌、淋菌、髄膜炎球菌などいわゆる化膿菌です。

  1. 膿瘍abscess):
    炎症部分の組織が壊死に陥り、生じた空隙に多量の膿汁が貯留している状態。切開により排膿すると治癒が早い。深部の膿瘍が組織の表面や皮膚面に管状の排膿路を形成している場合、通路を瘻孔とよびます。

  2. 蜂巣〔織〕炎(蜂窩織炎)phlegmonous inflammation,phlegmon):
    組織内に多量の好中球がびまん性に浸潤した炎症。化膿性炎症が広く組織中に浸潤拡大している状態で、皮膚(表皮下の結合組織)、胆嚢虫垂などにしばしば認められます。肉眼的に組織は腫大、水腫状で、割面は淡黄白色混濁し、膿汁を圧出します。

  3. 蓄膿empyema):
    身体にある腔所に膿が貯留している状態。体腔や副鼻腔、胆嚢、虫垂内などの中空臓器に好発します。〔例:慢性化膿性副鼻腔炎、膿胸(胸腔)〕。

5.出血性炎(hemorrhagic inflammation
炎症性滲出物に少量の赤血球はみられますが、多量にみられる場合、出血性炎といわれます。組織障害が強いために、微小血管壁の破壊が生じていること示しています。出血性炎は皮膚、消化管粘膜、漿膜、肺などの諸臓器に認められます。出血性炎の原因としては出血性敗血症、β溶血性連鎖球菌症(丹毒、猩紅熱など)、酵素の作用(出血性膵炎)などがあります。

6.壊疽性炎(putrid inflammation

壊疽のイラスト

腐敗菌が感染し、著しい組織の壊死・腐敗を生ずる炎症を壊疽性炎、あるいはたんに壊疽gangrene)といいます。病巣は汚い灰緑~暗緑色で組織の破壊が強く、悪臭があります(例:肺壊疽、壊疽性虫垂炎、壊疽性胆嚢炎など)。

2.増殖性炎 proliferative inflammation

細胞・組織の障害や滲出機転が比較的軽微で、細胞増殖が全面に出る炎症を増殖性炎といいます。すなわち肉芽組織にみられる変化が主体となります。反応は徐々に起こり、経過は慢性です。反応はおもに間質の血管結合組織に生ずるので、増殖性炎は慢性間質性炎とよぶことができます。結合組織の増生がおもな変化で、終局的には臓器の硬化を示します(例:肝硬変や萎縮腎)。通常、実質細胞は萎縮消失します。


3.特異性炎

肉芽腫性炎granulomatous inflammation)ともよびます。特異な炎症という意味で、特異性ないし特殊性炎ともよばれます。かなり早期から増殖性炎を示し、マクロファージないし組織球(大型細胞で類上皮細胞ともよばれます)と多核の巨細胞の塊を中心に、それを取り囲むリンパ球や形質細胞といった炎症細胞の層よりなる結節が形成されます。これが肉芽腫granulomatous)とよばれ、肉芽腫性炎を特徴づけます。

結核、野兎病、鼠径リンパ肉芽腫、梅毒、ハンセン病〔癩(らい)〕、サルコイドーシスなどで、リウマチ結節、特異性肉芽腫(異物の処理)も含まれます。肉芽腫は結核の結核結節、梅毒のゴム腫、リウマチ熱のアショフ(Aschoff)結節などとそれぞれ特徴があります。

1.結核
特異性炎のなかでしばしば遭遇するのは結核(tuberculosis)です。結核はかつては亡国病ともいわれ、樋口一葉、正岡子規、宮沢賢治など結核に罹患して倒れた著名人は多い。
結核性肉芽腫(結核結節)の中心部はチーズのように黄白色を呈することから、乾酪壊死caseous necrosis)とよばれます。乾酪壊死巣を取り囲むように組織球(大食細胞、類上皮細胞)の層があり、なかにこれらの細胞が融合した特徴的なラングハンスLanghans巨細胞がみられます。さらにその周囲にはリンパ球層があります。

結核のイラスト

2.梅毒:〔→リンパ節腫脹
梅毒(syphilis)の結節は中心部に壊死巣があり、結核と同様マクロファージが取り囲んでいます。巨細胞もときにみられます。最外層では形質細胞が目立つのが特徴的です。またその周囲は線維形成が豊富で硬化するので、ゴム腫(グンマ、gumma)ともよばれます。梅毒第3期にみられます。

3.ハンセン病 Hansen disease(癩、らい)
癩腫とよばれる肉芽腫が形成されます。中心部壊死は形成されません。
この疾患はゆっくり進行し、末梢神経を侵害して重篤な結果を生じます。熱帯や亜熱帯地方にまだ広く分布しています。その感染は、密接な長い期間の接触によって起こり、原因菌は、ほっそりした抗産生および抗アルコール性の桿菌(癩菌 Mycobacterium leprae)です。

4.サルコイドーシス (sarcoidosis
結核に比して小型の肉芽腫が形成されます。中心部に壊死巣はなく、類上皮細胞を中心とする小肉芽腫を多く形成します。肉芽腫内の巨細胞には、しばしば星状体(asteroid body)とよばれる封入体がみられます。肺、リンパ節などがおかされます。原因は不明です。


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