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速い球を投げる運動力学

子供の頃から野球をやっていると、速いボールを投げたいとよく思ったものです。でもどうやっても投げられませんでした。指導者はフォームがどうだ、開きがどうだ、手の上げ方や肘の位置がどうだなど、地区レベルの指導者では有益な情報を得られないのが本音です。回旋筋が大切であることはよく聞いてはいましたが、どう大切なのかまでは指導されたことはありませんでした。そこで、速いボールを投げるコツを運動力学的に解説していきたいと思います。多種ある理論のほんの一つの考え方ですが、速球のコツはほぼここで決まるのではないかと個人的には思っています。

1.インナーマッスル

肩関節におけるインナーマッスルとは、回旋筋腱板のことになります。インナーマッスルとは造語で、正式な名称ではありませんが、現在は誰でも扱う言語なのでインナーマッスルと表現していきます。このインナーマッスルは4つの筋肉が肩関節を覆う様に付着しています。棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋に分けられています。支配神経は3つの神経で支配されています。

回旋筋腱版

そこで昔からよく言われるのが、このインナーマッスルを鍛えると速い球が投げられるというものでした。当時はよく分からず一生懸命鍛えていました。しかし、そこまで効果がなかったような気はします。

そこで医学の勉強をやると、そりゃ意味ないなと思う様になりました。そもそもインナーマッスルの働きは強い動作を目的としていない筋肉なんです。強い動作を生むための補助的要素が強いという表現になると思います。

なので、インナーマッスルだけを一生懸命鍛えても速い球は投げられません。
では、補助的要素とはなんでしょうか。インナーマッスルの最も重要な働きは、関節を固定する働きです。インナーマッスルと呼ばれる筋肉は1関節筋(一つの関節をまたぐ筋肉)で骨に最も近い位置にあります。その上にアウターマッスルがあります。強い動作を生むのは大きな筋肉であるアウターマッスルになります。

肩関節のインナーマッスルとアウターマッスルの関係イラスト

2.アウターマッスル

肩関節におけるアウターマッスルは、上腕骨と肩甲骨を結ぶ筋肉に限定すると、上腕二頭筋、上腕三頭筋、烏口腕筋、大胸筋、三角筋になります。投球動作になると、体幹と肩甲骨を結ぶ筋肉など多くの筋肉が必要となります。

これらの筋肉個々の筋力を比べても、120㎞投げる投手と140㎞投げる投手ではそこまで差はありません。例えば、ベンチプレス100㎏を持ち上げる人が速い球を投げられるのかといえば、そうではありません。それに高校野球でもわりと細い選手でも剛速球を投げていたりします。

地区レベルになると130㎞/h 投げれば相当早い領域になりますが、なぜ速い球を投げれるようになるのか、長年の疑問でした。話は変わりますが、例えば、赤ちゃんが生まれて寝返りをするまで約5、6ヶ月かかりますが、個人差があり早く寝返りをする子もいれば、遅い子もいます。この二組の赤ちゃんの筋力を測ると筋力に差はないそうです。

では、何に違いがあるのでしょうか。それは筋力ではなく、筋肉の使い方に差があるそうです。寝返りをするための筋肉を上手に使えるようになるのが早いんです。歩行もそうですね。1歳頃になると二足歩行が出来るようになりますが、これも個人差があります。1歳に満たないうちから歩き出すと下半身が強いと親は喜びそうですが、これも筋力ではなく筋肉の使い方なので、遅くても心配はいりません。あの世界の王さんこと、王貞治さんが歩き始めたのは2歳頃だとコラムで紹介されていました。

話を戻すと、速い球を投げるための筋肉の使い方さえ分かれば誰でも今より速い球は投げられると思います。色々な本を読んで実践し参考にしてきても、実感するほどの効果が得られなかったのが正直なところでした。

ここで紹介する速球回旋理論は運動力学から導き出したものです。なぜ回旋筋が必要なのか。どこの筋肉が速球を導き出しているのか。地区レベルの方々にご紹介していきたいと思います。強豪校の方々はスルーしてください。普通みたいな空気にもなりかねないからです。

以前、プロ野球選手や強豪校の生徒が通う有名な病院の理学療法士の先生の講演で、その先生の速球理論は、右投手なら左手(グラブを持つ手)の引きが強いから速い球を投げれるんだと紹介されていました。

多分関係ないだろうなと聞いてて思ってはいました。プロ野球の投手でも、左手を引かずにダラりとしていていも150㎞投げていた投手もいたからです。万人が同じ条件でないと理論として成り立たないのではないかと考えていました。


3.人体の筋肉とてこの構造

速球回旋理論を理解するうえで、運動力学を知る必要があります。人体はありとあらゆる動作に対応するために、てこの原理を利用しています。ここで、3つのてこについて紹介していきます。

  1. 第1のてこ
    支点が力点と荷重点の間にあるシーソー型のてこで、その特徴は安定性です。人体では座位または立位における頭部の前後屈方向のつり合いにみられます。支点は環椎後頭関節、力点は後頭部の頸部伸筋群の付着部、荷重点は頭部全体の重心にあります。
    頸部伸筋群が弛緩して張力がなくなると頭部はつり合いを失って前屈します。また、片脚立ちの状態では、支点が立脚側の股関節、力点が中殿筋の付着部、荷重点が身体の重心とする第1のてこの例がみられます。

  2. 第2のてこ
    荷重点が力点と支点の間にあるてこで、力の腕の長さが荷重の腕の長さよりも長い。その特徴は小さな力で大きな荷重に対抗できる力の有利性にあります。人体では第2のてこがあてはまる構造は少ない。
    下顎骨の開口運動では、支点は顎関節、力点は開口運動に作用する舌骨上筋群の付着部、荷重点は顎を閉じる方向に働く咀嚼筋の付着部とする第2のてこの例です。また、腕橈骨筋による肘関節の屈曲では、支点が肘関節、力点が腕橈骨筋付着部、荷重点が前腕の重心点となる第2のてこの例です。

  3. 第3のてこ
    力点が支点と荷重点の間にあることで、力では不利ですが、運動の速さに対しては有利な構造となっています。人体では腹臥位での膝関節屈曲運動にみられます。支点は膝関節、力点は膝関節屈筋の付着部、荷重点は下腿と足の重量の中心です。
    また、座位で肘関節90°屈曲位に保持するとき、支点が肘関節、力点が上腕二頭筋の付着部、荷重点が前腕と手の重量の中心となる第3のてこの例となります。
人体におけるてこの原理のイラスト

4.速球回旋理論

投球動作において、腕の”しなり”に関係する腕の振りにおいて、この振りの速さが球の速さに繋がります。地区レベル的には、投げ出しの曲げた肘が、伸ばされる時の速度が速ければ速いほど球が速く投げられると思い込んでいました。そのように思い込んでいる方も多いとは思います。

肘を伸ばす筋肉は主に上腕三頭筋ですが、伸筋群はミオグロビン量が高く瞬発力というより持久力を特徴とした筋肉になります。赤筋や遅筋と呼ばれます。伸筋の逆が屈筋になりますが、屈筋群は瞬発力を特徴とします。

投球動作で腕の”しなり”を生むための筋肉は、どれだけ強く速い内旋が出来るかによります(この理論において)。腕を後方へ上げ外旋位から内旋させる筋肉は、強力に働く広背筋と少しの大円筋になります。大円筋と同じ神経支配の肩甲下筋(インナーマッスル)は関節を固定させる働きが主です。

投げ出しでなるべく上腕骨を外旋位まで捻ります。助走のようなもので、肩が柔らかい人ほどこのようにより外旋位をとる事ができます。画像は、高校生時代の今井投手(現西武ライオンズ)の投球フォームです。

この外旋位から強力に内旋させる事で”しなり”へとつながります。

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このように、速球を投げる要素に上腕骨の内旋力で”しなり”が生まれていることは写真からも判断できます。実際、意識して投げても写真のように出来ません。分かっていても上腕骨の回旋を使って投球をすることは難しいです。ただ、意識して投げた次の日の筋肉痛(数年ぶりにキャッチボールをしました)は、今までに経験したことない部位(肩の前方)の筋肉痛が出ます。肩を故障しているので投げ込みなどは出来ませんが、意識をして投げ込めば筋肉を作っていくこともできると思います。

広背筋と大円筋の解剖は次のイラストになります。

上肢帯の筋:広背筋、大円筋の起始停止、作用、神経支配

強く腕を振るためには、下半身の強化や体幹の強化も必要です。それは、広背筋の付着部は骨盤まで達しているからです。強く振れば振るほど下半身まで影響を及ぼします。下半身が安定してこそ、強く腕を振れるようになり制球も安定してきます。

腕を強く振るときに下半身が安定していないと、腕の振りに下半身が負けて土台が揺らぎコントロールも定まりません。

広背筋のトレーニングには懸垂運動が効果的です。投球動作問わず、バットを振る動作、またはボクシングのパンチ力、短距離走などでも広背筋は大活躍します。腕を使う競技はほぼ広背筋は関係しています。

自宅でも簡単にトレーニングできる器具は以下のものがあるようです。

地区レベル的には、下半身に影響を及ぼすほど腕を振れていないので下半身強化の意味を実感したことはありませんでした。

腕の振り方は、回旋させることで第3のてこの作用により速い運動を可能にします。腕を強く振るためには他に色々な条件があります。自分の体に合った出力の仕方を発見して今より速い球を投げれるようになりましょう。