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視診の意義と方法

  1. 意義
    患者の外形外観を観察して所見をとる診察法を視診といいます。診察のなかでも、もっとも基本的で、かつ簡単に行えます。それでいて注意深い視診は、診断を行ううえできわめて有意義な情報を提供してくれます。

    たとえば、胸痛を主訴とした患者の胸背部に発赤や水泡を帯状に認めた場合には、帯状疱疹(帯状ヘルペス)が示唆されます。

    全身倦怠感や食欲不振を訴える患者の皮膚や眼球結膜が黄色であれば、肝・胆道疾患による黄疸が考えられます。

    バセドウ(Basedow)病や先端巨大症などの内分泌疾患や、パーキンソン(Parkinson)病や舞踏病などといった神経疾患は、一見しただけでも診断を下しうることがあります。

    足の痛みを訴えている患者では、局所の発赤や腫脹などがあれば炎症性疾患と判断できます。皮膚の発疹は視診で診断をします。

    このように、視診はきわめて重要です。丁寧に注意深く患者を観察する態度を身につけておくようにします。

  2. 方法
    患者が診察室に入室してきた時点から視診を始めます。あまり”じろじろ”みると不審がられるので、それとなく観察します。

    体格、表情、身だしなみ、歩行などの動作をまず観察します。ついで全身を観察し、頭から顔、頚、胸、腹、四肢へと各部位の視診に移ります。所見を見落とさないためには、一定の順序で系統立てて視診を詳細に行うようにします。患者が訴える症状のある局所は、とくに入念に視診を行います。

    なお、バセドウ病のように顔貌を一見しただけで診断が下せるような疾患でも、誤診を防ぐために、また合併症の存在を見逃さないためにも、身体各部の視察を怠らないようにするべきです。

帯状疱疹ヘルペスの感染画像


体格・体型

身体は、成長によって各方向へ発達します。身長、体系を含めた総合的な身体の外見を体格といいます。

体格は主として骨格系の発達により、主として身長、すなわち縦方向への発達の程度を表現することが多いです。体型は骨格筋肉の発達状況などによって規定されます。いわゆる体つきのことをさします。

体格の異常は、遺伝的素因、胎児期における母体の疾病、出生後の疾患などによって起こります。

身長が極端に高い状態を巨人症といいます。下垂体機能亢進症で、下垂体ホルモンが思春期以前、つまり骨端が完成するまえに過剰に分泌されると骨格が過度に発育し、巨人症となります。

骨端が完成した成人で下垂体機能亢進症が発病すれば、身長は伸びずに、頭部、頬骨、顎、手足などが肥大します。これは先端巨大症と呼ばれます。

マルファン(Marfan)症候群は四肢が長く、身長が高くなる先天性の疾患です。指趾が細長くなり、クモ状指・趾症とよばれることがあります。また、先天性心疾患を伴うことも多いです。

逆に身長が極端に低い状態は小人症とよばれます。くる病、骨・軟骨異栄養症などの骨疾患心疾患などの全身性疾患、下垂体機能低下症などの内分泌疾患、代謝異常症などが原因で起こります。

体型は

  • 無力型:やせ型で筋肉の発達が悪く、力が弱い
  • 肥満型:肥っていて、ずんぐりしている
  • 闘士型:筋肉がきわめてよく発達している
に分類されます。

体型は性格、気質と相関していることがあります。
非社交的で控えめな分裂気質は無力型に、
クレッチマーによると、快活と沈うつな性格が混在する循環気質は肥満型に、
粘り強く几帳面な粘着気質は闘士型に、それぞれ関係が深いとされます。

体勢・姿勢

健康人では、頭をまっすぐにして胸をはり、腹部は平坦です。立位、坐位、仰臥位など、思いのままに体位を自由に変えることができます。しかし疾病に罹患すると、特徴的な体位や姿勢をとることがあります。そこで視診で体位・姿勢を観察すれば、診断の参考にすることができます。

疼痛など苦痛を訴える患者では、その苦痛の部位をかばうような姿勢をとることがあります。たとえば、腰椎椎間板ヘルニアのために腰痛や坐骨神経痛症候群のあるときには、立位では疼痛をやわらげるように健側に体幹を曲げ、軽く股関節を屈曲した姿勢をとります。

あるいは、健側に重心をかけるようにして、脊柱を側弯(坐骨神経痛性側弯)の姿勢をとります。腹痛のある患者は、股関節および膝関節を曲げる姿勢をとっています。
胆石症や尿管結石症では、激痛のために身体をエビのように折り曲げます(エビ姿勢)。

重症心疾患肺疾患では、横臥するとは静脈循環血液量が増加して右心負荷が憎悪し、呼吸困難が強くなって苦しくなります。そこで、床上に座ったり(起坐位)、胸の前にふとんを当てて、もたれかかるようにしていたりします。

起座呼吸のイラスト

また骨、筋肉、神経系疾患では、しばしば独特な体位や姿勢を示します。

脳血管障害では、麻痺側の前腕は強く屈曲し、下肢は痙性となって、足が足底側へ屈曲した姿勢になります〔マン・ウェルニッケ(Man-Wernicke)姿勢〕。

パーキンソン病では、頭を前屈し、肘関節を曲げて、独特の前かがみの姿勢をとります。

マン・ウェルニッケ姿勢、パーキンソン様姿勢のイラスト

髄膜炎破傷風では背筋が強く緊張して強直し、身体全体がまっすぐに伸びて硬くなり、弓状に背屈した姿勢(後弓反張)になります。

脊柱の異常として、脊柱の弯曲の異常として、脊柱弯姿勢(特発性脊柱側弯坐骨神経痛、姿勢性側弯など)、脊柱後弯姿勢(脊椎カリエスくる病など)、脊柱前弯姿勢(強直性脊椎炎など)があります。


栄養状態(肥満とやせ)

栄養状態は、皮下脂肪組織の発達の程度で判断される。体重を計測し、標準体重との比較によって栄養状態を評価します。標準体重の算出法にはいろいろありますが、現在では、BMI〔body mass index:体重(㎏)/身長(m)2〕を体格指数として用い、BMIの標準を22として次の式が使用されます。

標準体重=伸長(m)2 ✖ 22

そして、肥満度を次のように定義し、肥満とやせの判定に利用されます。

肥満度=(実測体重ー標準体重)÷ 標準体重 ✖ 100%

肥満とは、たんに体重が多すぎるということではなく、身体を構成する成分のうち、脂肪組織の占める割合が異常に増加した状態と定義します。

しかし、実際には脂肪組織を正確に測定できる方法が一般的ではないので、日本肥満学会では、肥満度が20%以上であるときを肥満と判定しています。

肥満の原因としては、カロリーの取りすぎ、もしくは体質に基づく単純性肥満(本態性肥満)がもっとも多く、肥満者の約90~95%を占めます。

内分泌疾患、視床下部障害、遺伝性疾患など、なんらかの基礎疾患があって肥満になるものを症候性肥満といいます。

症候性肥満としては内分泌疾患によるものが多く、副腎皮質機能亢進症〔クッシング(Cushing)症候群〕、性腺機能不全、甲状腺機能低下症などがあります。

やせとは、脂肪組織だけでなく、筋肉などの徐脂肪組織までもが減少した状態と定義されます。この意味では、やせは直接的に肥満の反対概念とはいえません。やせの場合にも、実際には肥満度が-20%以下の場合と判定することが多い。やせにも単純性と症候性があります。

単純性やせは、食物不足やダイエットが原因となります。

症候性やせは、神経性食思不振症にみられるような精神的影響や、消化器疾患のために食事の摂取が不十分であったり、吸収不良の場合に起きます。

また代謝の亢進、内分泌疾患〔甲状腺機能亢進症、下垂体機能低下症、アジソン(Addison)病、糖尿病など〕などでもみられます。

悪性腫瘍肺結核などの重症あるいは慢性消耗性疾患では、末期に高度のやせとなります。皮膚は乾燥して弛緩し、眼窩や両頬がくぼみ、特徴的な顔貌(ヒポクラテス顔貌)となります。このように、極端にやせが進んだ状態を悪液質とよんでいます。


精神状態

患者の精神状態や動きを、診察室での態度や問診における応答の仕方などから判断します。精神状態の評価は、神経疾患などの器質的疾患の診断や、心身症などの心理的要因が背景にある疾患の診断にも重要です。

1.意識状態

意識状態は知覚、注意、認知、思考、判断、記憶などの精神活動全般を統合したもので、大脳皮質全体の興奮水準を意味します。意識がしっかりしている状態を清明といいます。

種々の脳疾患(外傷、脳血管障害、脳炎、脳腫瘍など)をはじめ、肝硬変尿毒症糖尿病薬物中毒などの疾患で意識が障害されます。意識が障害された状態には、次のように種々の程度があります。

  1. 無欲状態:意識はあるが、周囲に関心を示さず、ぼんやりとしている状態

  2. 傾眠:軽い刺激にも反応するが、うとうと眠っているような状態

  3. 昏迷:皮膚をつねるなどの強い刺激にのみ少し反応する状態

  4. 昏睡:意識が完全に消失し、いかなる刺激に対しても反応しない状態。尿・便を失禁する。

  5. 失神:一過性に意識が短時間失われる状態

  6. せん妄:外からの刺激には反応しないが、不安・興奮状態になって意味不明のことを口走ったり、身体を動かしたりする状態

上記の分類はいくぶん抽象的で、しばしば判定が難しい。そこで、より客観的に判定でき、しかも医師以外の人でも評価が可能な分類としてJapan coma scale(JCS,Ⅲ-3-9度方式)が広く使われています。

ただし、この分類を用いるときでも、たんに数値だけでなく、どのような刺激にどのように反応したかを具体的に記載しておくようにします。


2.知能

知能が高度に低下したものを知的障害、もしくは痴呆といいます。知的障害は、知能の発育が生まれつき悪いものをいいます。痴呆は、一度発達した知能がなんらかの原因で低下したものをいいます。

知能は知能検査で判定できます。簡便には、単純な計算を試したり(100から順に7を次々に引いていく)、朝食の内容や生年月日を訊ねたりして記憶を調べます。


3.感情

外的刺激に対し、喜び、怒り、悲しみ、愉快、憂うつなどの精神的反応を感情といいます感情の変化には以下のようなものがあります。

  1. 不安状態:じっとしていられない強い苦しみの感情で、不安神経症などにみられます。胸内苦悶、呼吸困難、冷や汗、頻尿、不眠など多彩な自律神経症状を伴うことが多い。

  2. 抑うつ状態:気分が沈みがちで、絶望感、自責感などが現れる状態。外界に対する関心や意欲がなく、ささいなことを心配します。

  3. 躁状態:気分が高揚し、外界の状況を無視して感情を表して行動に移す状態。多弁で、話題が次から次へと飛躍します。

  4. 多幸症:異常な、あるいは誇張された爽快気分をいいます。躁状態とは異なり、行動の促進は伴わない。脳の器質疾患でみられます。

異常運動

人間は脳・神経系の司令を受けて筋肉、骨、関節が円滑に作動して、スムーズな運動をします。通常では認められないような異常運動がある場合には、運動を調節するメカニズムのいずれかに異常があると考えられます。

しかも、疾患によって特有の運動を示します。こうして、視診によって運動を観察することは、診断を行ううえで重要な意義をもちます。

1.不随運動

神経系の疾患では、みずからの意思とは関係がなく、不随意に起こる運動がみられます。不随意運動は恒常的に持続する場合と、反復性に規則性あるいは不規則に起こるものとがあります。

また全身性に起きたり、局所的もしくは特定の筋肉だけに出現するものがあります。特徴的な不随運動を示します。

  1. 痙攣
    筋肉が不随意に激しく攣縮する状態です。筋肉の攣縮が、ある時間持続的に起こるものを強直性攣縮、攣縮と弛緩が交互に繰り返すものを間代性攣縮といいます。

    痙攣を起こす代表的な疾患にてんかんがあります。てんかん大発作では、突然に強直性痙攣が始まり、意識消失、頭部および眼球の偏位を起こし、やがて間代性痙攣に移行します。

    痙攣がおさまると深い睡眠状態に陥ります。全経過は数十分から数時間にわたることがあります。

    このほか、てんかんには、短時間の意識障害と眼瞼痙攣や手の軽い痙攣などを示す小発作などもあります。

    破傷風では顔面筋が痙攣して、あたかも無理やり笑ったようにみえることがあり、痙笑といいます。低カルシウム血症でも、特有な痙攣が起きます(テタニー)。

  2. 振戦
    リズミカルに動く不随意運動を振戦といいます。甲状腺機能亢進症アルコール中毒、精神の不安定な状態などでは、周期が短く、振幅の小さな手指の振戦がしばしばみられます。

    パーキンソン病では、粗くて遅い振戦がみられ、あたかも丸薬をこねるように、母指を中指および示指にこすりつけるような運動が特徴的です。

    なお、手を動かそうとしたときだけに手が震えることがあります。このように、行動しようとするときだけに振戦が起きるものを企図振戦といいます。

    多発性硬化症小脳疾患に特徴的です。肝硬変などの重症な肝疾患では切迫昏睡時に、手指や前腕・上腕が不規則に屈伸し、鳥が羽ばたくような振戦をすることがあります。この振戦を羽ばたき振戦といいます。


  3. 舞踏病様振戦
    不規則で、目的のないような非対称性の、迅速でしかも多様性の運動をいいます。舌を出したり引っ込めたり、顔をしかめたりするなど、踊るような動作を連続的に行ったりします。小舞踏病、ハンチントン(Huntington)舞踏病などでみられます。

  4. アテトーデ運動
    ゆっくりと、持続性のある運動です。虫がはうように指をくねらせたり、腕関節を屈曲し回内させたり、前腕および上腕の回内および外転、または回外と回内運動を示したりします。先天性脳性小児麻痺などでみられます。

  5. チック
    単一もしくは複数の筋肉が、目的もなく運動を反復するものです。顔面筋にみられやすい。眼をパチパチさせたり、顔をしかめたり、唇をなめたり、舌鼓みを打ったりします。器質的な脳疾患のほか、神経症など精神的異常でも起きます。

  6. ミオクローヌス
    突発性に一部の筋肉がすばやく収縮するものです。上肢にミオクローヌスが起これば、手に持っている物を落としたりします。突然に転倒することもあります。脳炎やその後遺症などで起きます。

2.麻痺

随意運動が障害された状態を麻痺といいます。
障害される部位によって、麻痺は次のように分類されます。

  1. 中枢性麻痺
    脳血管障害、筋萎縮性側索硬化症、仮性球麻痺など核上性麻痺でみられます。筋肉は緊張し、腱反射が亢進します。

  2. 末梢性麻痺
    神経損傷、ギラン・バレー症候群、球麻痺など、下位運動ニューロンもしくは筋肉の障害でみられます。筋肉の緊張は減退し、腱反射は減弱もしくは消失します。

    また運動麻痺の起きている程度と分布から、下のように分類して表記します。たとえば、完全片麻痺とか不全単麻痺などと記載します。

3.運動失調

ある運動をするには、いくつもの筋肉が調和を持って収縮することが重要です。そのした調和が乱れてしまうと、円滑な運動ができなくなります。この結果起きるぎこちない運動を運動失調といいます。

  1. 脊髄性運動失調
    脊髄癆などで脊髄後根と後索が障害され、深部知覚に異常が生じて起きます。足を必要以上に高く上げ、足もとをしっかり眼で確かめながら歩きます。視覚の助けを借りれば円滑な運動が可能になります。

  2. 小脳性運動失調
    小脳腫瘍などで小脳が障害されて起きる運動失調です。不安定で、動揺しながら酩酊様の歩行をします。視覚で矯正できません