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触診の意義と方法

1.触診の意義

患者の身体各部に、手指を触れて診察する方法を触診といいます。

皮膚や皮下組織などの体表部分、筋肉、骨、関節、そして内部臓器などを触診します。触診では、患者が異常を訴える局所、および視診で診察者が異常と判断した部分の性状を調べることに意義があります。

2.触診の方法

触診では局所の熱感、緊張、弛緩、圧痛、知覚過敏などを、診察者の指先の感覚で捉えます。しこり、硬結あるいは腫瘤を触れる場合は、大きさ、形状、硬さ、可動性、周囲との癒着、圧痛などを調べます。

肝臓などの臓器を触知する場合は、その臓器であることを確認するとともに、表面や辺縁の性状、硬さ、緊張感、圧痛などを調べます。
触診を行うにあたっては、以下のような点に十分に注意します。

  1. 手掌と指先は清潔にし、爪は適宜整えておきます。

  2. 手指を適温に保ちます。ことに冬季の寒いときには、いきなり冷たい手で触診しないようにします。

  3. 最初は軟らかく、かつ広く触れます。力を加える場合は徐々に加えて、徐々に力を抜きます。けっして衝撃的に行ってはなりません。

  4. 患者の訴える部位だけでなく、むしろ他の部位から触診を開始して、最後に問題のある部位を入念に触診します。たとえば、腹痛で腹部を触診するさい、腹痛のある部位をいきなり触ると腹壁筋肉が緊張してしまって、詳しく触診できなくなることがあります。

    ただし、このような場合には、「痛む箇所は最後に詳しく診察しますから」と説明し、患者に不信感を抱かれないように注意します。

  5. 体位、姿勢、肢位をいろいろ変えて触診することも重要です。

皮膚、皮下組織の触診

皮膚と皮下組織は、視診とともに触診をもっとも行いやすい。圧痛の有無と程度、しこりや腫瘤などの病変の存在にとくに注意します。

1.代表的な圧痛点の部位と意義

神経痛や内臓の病変では、特定の皮膚や皮下組織が知覚過敏になることがあります。そこで、その部位を圧迫すると強い痛みを生じます。この部位を圧痛点といい、種々の疾患の存在や経過の消長を推定するうえで有意義です。

1.三叉神経痛

三叉神経は三つの主要な分枝、第1枝(眼神経)、第2(上顎神経)、第3枝(下顎神経)に分かれています。それぞれの分枝に神経痛が起きると、その分布域に一致して強い電撃性の疼痛が発生します。

  1. 上眼窩点
    眼神経痛では、眼窩上神経が皮膚に出てくる眼窩上孔の部分に圧痛点があり、上眼窩点といいます。

  2. 下眼窩点
    上顎神経痛では、眼窩下神経が皮膚に出てくる眼窩下孔の部分に圧痛点があり、下眼窩点といいます。

  3. オトガイ点
    下顎神経痛ではオトガイ神経孔に一致する圧痛点があり、オトガイ点といいます。

2.胃潰瘍

胃潰瘍では心窩部に自発痛および圧痛がありますが、次のような部位に圧痛を認めることがあり、診断の補助になることがります。

  1. ボアス点
    第10~12胸椎棘突起の側方3cm以内で、主に左側に証明されます。

3.虫垂炎

虫垂炎では、右腸骨窩(回盲部)に圧痛がありますが、以下のような圧痛点がよく知られています。

  1. マックバーネ(McBurney)圧痛点
    右上前腸骨棘と臍とを結ぶ直線上で、右腸骨棘から約5㎝の点です。

  2. ランツ(Lanz)点
    左右の上前腸骨棘を結ぶ線を三等分して、右外方1/3と中央1/3との境界点をいいます。

  3. ムンロー(マンロー、Munro)点
    臍と右上前腸骨棘とを結ぶ直線と、腹直筋の外縁との交叉する部位をさします。


4.皮膚腫瘤・皮下腫瘤

皮膚または皮下に腫瘤を触知する場合には、そのサイズ、表面の性状、硬さ、圧痛、可動性などを確認します。皮膚の性状や熱感、分泌物の有無にも注意します。皮下腫瘤の場合には、深さおよび内部臓器との関係も確認します。

腫瘤が良性腫瘍の場合には、一般的に表面はスムーズで、可動性のあることが多い。炎症を起こしていれば表面は赤くなり、自発痛や圧痛を伴います。

悪性腫瘍では非常に硬く、表面は凸凹で不整となっています。周囲の組織と癒着し、可動性は悪い。悪性腫瘍が疑われる場合には、専門施設に紹介しなければなりません。


筋肉の触診

筋肉の発達程度は個人差が大きい。職業や、スポーツで鍛錬された筋肉はよく発達しています。逆に長期間使用しないでいると、筋肉は萎縮してきます。これは廃用萎縮といい、脳血管障害で麻痺の生じた四肢などにみられます。

筋肉の触診では、左右の同部位を比較することが大切です。四肢の周径を測定することも参考になります。

1.筋萎縮と疾患

筋肉をさわると軟らかく、力を入れても硬くならない場合に、筋萎縮があると判断できます。筋萎縮をきたす疾患には多種類あります。一次性筋萎縮には、大きく分けて、下部運動ニューロン障害による神経原生のものと、筋肉の疾患による筋原生のものとがあります。

筋萎縮は、疾患により、発生の仕方や分布に特徴があります。どの部位から、どのように筋委縮が起きたのか、萎縮は進行性であるかどうか確認します。また知覚障害の有無や神経障害の有無にも注意します。家族内での発病も、病気を診断する参考になります。

2.筋肥大と疾患

運動や職業などの鍛錬でも筋肉の肥大は起きます。この場合には、筋肉の構造そのものには問題はありません。これに対し筋ジストロフィー症では、ほかの筋肉は萎縮するのに、一部に筋肉だけが肥大します。

そして肥大した筋肉は脂肪組織が主体となっており、ゴムのような弾性を示し、筋力も低下しています。このような筋肥大を仮性肥大といいます。

仮性肥大はディシェンヌ(Duchenne)型筋ジストロフィー症に特徴的で、腓腹部、ときには上腕部に認められます。

3.筋緊張(筋トーヌス)

筋肉をすっかり弛緩させた状態でも、筋肉は不随意に緊張した状態にあります。こうした筋肉の緊張を筋トーヌスとよんでいます。筋肉の緊張度を客観的に評価するのは難しいですが、各関節を他動的に動かし、そのときに受ける抵抗から筋トーヌスを判定します。

例えば、患者に力を抜いてもらい、前腕をもって他動的に回内・回外させて、その抵抗をみます。あるいは診察者が母指の指腹で筋肉をさわり、一定の深さに指が押し込まれるまでにどのくらいの力が必要かを判断して、筋肉の硬さや軟らかさを判断します。これを数値で表示できる筋緊張測定器もあります。

筋トーヌスの変化には亢進と低下があります。亢進は、痙直と硬直(強剛)に分けられます。

1)筋トーヌスの亢進

  1. 痙直
    痙直は、他動的に筋肉を運動させた場合、最初は抵抗が強くて運動が起きにくいですが、あるところまで動かすと急に抵抗が抜けてしまう状態をさします。

    たとえば前腕を屈曲させようとすると、最初は硬いが、ある時点で急に抵抗がなくなります。あたかも折りたたみナイフを閉じるようで、折りたたみナイフ現象とよびます。

    痙直は、屈筋か伸筋のいずれか一方のみが障害された状態で、錐体路障害によって出現します。

  2. 硬直
    屈筋と伸筋の両方が障害されると、他動的運動にさいして、最初から最後まで抵抗があります。この状態を硬直といいます。あたかも鉛管を曲げる感じに似ていて、鉛管現象とよばれます。硬直は錐体外路系の疾患で出現し、パーキンソン病などでよくみられます。

2)筋トーヌスの低下

他動的な運動に対してまったく抵抗がなく、弛緩している状態をさします。触診すると筋肉は軟らかく、筋肉に特有な抵抗が減弱しています。このため、四肢を揺さぶると四肢が”ブランブラン”する状態になり、振り子様運動とよばれます。

筋トーヌスの低下は小脳疾患に特徴的ですが、片麻痺の初期、脊髄癆でもみられます。


骨、関節の触診

1.体表から触知できる骨性目標

骨の触診では、骨端および骨幹端部は蝕知しやすいですが、指骨や脛骨などでは骨幹部も容易に触知できます。体表から骨と関節を触診したり、生体を計測する場合には、骨性も目標(骨指標)を利用します。

2.骨折の固有症状

骨折、ことに外傷で起きた骨折では、局所の疼痛、機能障害、骨の変形、異常な動き、軋れき音が重要な症候です。これらを骨折の固有症状といい、骨折の診断に重要な所見となります。しかも確実に診断できるので、あえて固有症状にこだわるべきではありません。

  1. 疼痛
    骨折部には著名な疼痛があり、局所を動かすと痛みは増強されます。触診すると、骨折部の圧迫により激しい限局性の疼痛を訴えます。マルゲーニュ(Malaigne)骨折痛といい、骨折の診断に重要です。

    さらに肢を長軸に圧迫すると強い痛みがあり(軸圧痛)、動かすと激痛を感じます。ただし骨折はX線撮影で容易に診断がつくので、このような診察を不用意に行ってはなりません。

  2. 機能障害
    骨折によって骨の支柱としての機能が損なわれ、筋肉の作用も十分に果たせずに機能の障害が生じます。同時に、疼痛をかばうために機能が行えないことも加わります。

  3. 変形
    骨折片の転位による骨の形の変化と、それに伴う筋肉の膨隆、さらに局所の内出血によるはれ(骨折血腫)などが重なりあって、骨折部位に変形がみられます。関節付近での骨折では、関節の脱臼との鑑別が問題になります。

  4. 異常可動性
    長管骨の骨折では、骨折部で、本来ありえない異常な動きを示すようになります。

  5. 軋れき音
    異常可動性がある場合、骨折した骨折端が互いに触れ合う音がします。しかし、骨折部位を動かすことは激痛を与えることになりますし、血管や神経を損傷する恐れもあるので、不用意に行うべきではありません。

3.関節部の熱感、圧痛、腫脹

関節の触診は、関節部をおおう皮膚、皮下組織、関節周囲の靭帯、筋肉や腱、関節包、関節裂隙、関節を構成する骨といった順序で診察を進めます。

  1. 関節部の触診事項
    とくに関節部の触診で注意して確認すべき事項は、局所熱感の有無、皮下の結節や硬結、浮腫、リンパ節腫脹、関節包の肥厚、関節部の圧痛の有無と部位、関節周辺の腫瘤や膝窩部粘液嚢腫などです。

    関節包の肥厚は、関節部の炎症が長期間持続したときにみられますが、関節の部位によっては判断が難しい。

    関節周辺の腫瘤としては、手関節背部などに多くみられるガングリオン(結節腫)に注意します。

  2. 関節液貯留
    膝関節の関節炎で滲出液が貯留すると、内側および外側広筋と膝蓋骨でつくられる正常のくぼみが消え、明瞭でなくなります。

    さらに大量の関節液が貯留すると、膝関節部が膨隆してきます。また膝関節を伸ばしたままで仰向けになり、膝関節の側面と前面を診察者の両手の間で強く圧迫して、示指で膝蓋骨を上から圧すると、関節腔内に液体が貯留している場合には膝蓋骨が反跳してくる抵抗感があります。

    これを膝蓋骨跳動といい、関節液貯留の診断に有意義な所見です。
  3. 関節の運動制限
    関節を患者自身で、あるいは他動的に動かしてみて、運動に制限や抵抗がないかどうかを調べます。さらに関節の弛緩や、運動に伴う疼痛や異常な音にも注意します。

    関節の運動制限には、大きく分けて3種類あります。第一は骨および軟骨の関節体に病変があり生じるもので、強直()といいます。

    第二は関節体を取り巻く関節包、靭帯、皮膚、筋肉、腱などに原因がある場合で、拘縮とよびます。ただし、現実にはこの両者を厳密に区別することが難しいこともあり、硬直もしくは硬着という表現も用いられます。

    第三には、片麻痺など神経系の異常によって関節の運動が制限されることがあり、強剛または硬剛といいます。

  4. 動揺関節
    正常の関節運動範囲を超えて、あるいは本来はできないはずの異常な方向に関節が運動し、固定性や支持性に乏しい状態を動揺関節といいます。