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  3. 肩甲帯・上肢の疾患

肩甲帯および上肢の疾患

1.肩関節の解剖と機能

  1. 肩関節の解剖
    1. 肩関節ないし肩甲骨は鎖骨、肩甲骨、上腕骨からなり、これら、ならびに胸郭とのあいだに生じる関節、すなわち肩甲上腕関節肩鎖関節胸鎖関節および肩甲胸郭関節から形成されています。通常、肩甲上腕関節を肩関節と呼んでいます。当然のことながら肩甲胸郭関節は真の関節ではありません。
    2. 肩関節解剖のイラスト

    3. 肩関節は人体中最大の可動域をもつ球関節です。関節窩は骨頭に比べて著しく小さく、関節窩と骨頭の曲率半径はまったく異なり、不安定な関節構造です。このため外傷性脱臼を起こしやすい。

    4. 上腕骨頭を袖口のように包む回旋筋群腱板 rotator cuff や、数個の強い靭帯などの軟部組織が骨性構造の不安定性を補強しています。

    5. 腱板(回旋筋腱板)肩甲骨と上腕骨を結ぶ4つの筋、すなわち前方は肩甲下筋、上後方は棘上筋、後下方には棘下筋小円筋のおのおのの腱部より形成され、関節包をおおい、肩甲上腕関節の安定性を助けています。上方には烏口突起、烏口肩峰靭帯、肩峰よりなる烏口肩峰弓があって、上腕骨大結節とのあいだに関節のような運動をします(上腕上方関節)。

  2. 肩関節の運動
    1. 基本肢位から外転30°までは肩甲上腕関節のみで動くが、それをこえると肩甲骨の動きが加わります。すなわち、肩甲上腕関節の外転角度と肩甲骨の回旋角度は約2:1の比をなします。たとえば肩関節最大外転180°の場合、肩甲上腕関節は120°外転し、肩甲骨は60°外旋することとなります。
    2. 肩関節運動のイラスト

    3. 肩鎖関節胸鎖関節もまた肩甲骨の回旋につれて若干の動きを示します。

    4. 上腕骨を内旋して肩関節を外転させると、大結節が烏口肩峰弓に衝突するため、最大内旋時の外転角度は約60°にとどまります。

    5. 外転のほか、屈曲、伸展、内転、回旋運動が行われ、さらに総合運動として分回し運動がなされます。

    6. 上腕骨の外側上端には大結節小結節があり、前者には外転・外旋筋・後者には内転・内旋筋が付着します。

    7. 三角筋は上腕骨の上・中1/3境界付近に付着し、肩の屈曲・伸展・外転を行います。

    8. 外転時には棘上筋が働いて、上腕骨頭を関節窩に圧迫してテコの支点を与え、三角筋が挙上時に有効に作用するのを助けます。

2.肘関節、前腕の解剖と機能

Huter線、Huter三角のイラスト

  1. 肘関節は上腕骨遠位端と尺骨橈骨の近位端が形成する関節です。
  2. 尺骨近位端と上腕骨遠位端の滑車部は蝶番関節を形成します。
  3. 関節の軸は上腕骨の軸に対して直角ではなく、やや撓側に傾斜しています。このため肘関節は約10°(6~12°)の外反を示します。この角度は女性のほうが大きい。
  4. 上腕骨小頭と橈骨頭は一種の球関節で、肘の屈伸のほかに、前腕の回内・回外運動を可能にします。
  5. 前腕の回内・回外運動では、尺骨は上腕骨に対して固定されており、尺骨の周りを橈骨が回転します。
  6. 肘関節部の脱臼骨折ではHuter線やHuter三角に乱れを生じます。

3.手の解剖と機能

  1. 手指の皮膚
    1. 手指の皮膚は手掌側と手背側では異なります。
    2. 手掌側は身体のそのほかの大部分の皮膚と異なり、毛根がなく、独特の格子様または渦様の紋があります。
    3. 手掌と同じような皮膚をもつものは、足底のみです。

  2. 肩関節運動のイラスト

  3. 手指のアーチ構造
    1. 手を断面でみると、指が第3中手骨を頂点としたアーチ状に並んでいます(横のアーチ)。手根骨もアーチ状に並んでいます。
    2. 手を側方からみると、MP関節を頂点として手指が軽く屈曲し、アーチを形成します(縦のアーチ)。
    3. このアーチ構造は手指の機能に密接に関与し、アーチ構造の破綻をきたすと手指の機能が損なわれます。

  4. 手指の良肢位と動作
    1. 手指の主要機能は力強い把握(つかみgrip)と正確なつまみ(pinch)です。このほか、ひっかけ、押し、叩きなどの不随機能があります。

    2. 手の良肢位または機能肢位
      • 手関節経度伸展位、中手指節関節(MPJ)、近位指節関節(PIPJ)、遠位指節関節(DIPJ)、経度屈曲位、すなわちボールを軽く握った肢位が一番機能的です。
      • このとき第2~5指尖は母指尖とほぼ等距離にあり、第2~5指尖は舟状骨結節を向いています。
      • 母指尖は第2~5のすべての指尖と対向可能です。
      • 手を長期間固定するときは良肢位に固定すると機能障害がもっとも少ない。

  5. 手の内在筋(固有筋)と外来筋
    1. 外来筋:手指を動かす筋肉で、筋の起始部および筋腹が手掌にないもの(深指屈筋、長母指屈筋、長・短母指伸筋、総指伸筋、長母指外転筋など)で、手の開排や握り動作に関与します。
    2. 内在筋:手掌内に起始部と停止部をもつ筋(骨間筋、虫様筋、母指対立筋など)で、主に手の巧緻運動に関与します。

  6. 手指の外科的区分
    1. 手指とくに屈筋腱の損傷では、損傷を受けた部位によって治療法が異なるので、便宜的に手指をZoneI~ZoneVに分画しています。分画法には多種あります。
  7. 肩関節運動のイラスト


  8. 手の神経支配
    1. 手の知覚神経支配
      • 正中・尺骨・橈骨神経が手の知覚を支配します。
      • 手の知覚では、機能上の観点から正中神経がもっとも重要です。

    2. 手の運動神経支配
  9. 手の運動支配神経領域のイラスト


4.胸郭出口症候群 thoracic autolet syndrome

  • 腕神経叢および鎖骨動静脈が、胸郭上部の解剖学的隘路で圧迫されて生じる症候群で、次の三者があります。
    1. 斜角筋症候群
    2. 肋鎖症候群
    3. 過外転症候群
  • これらの症候群による症状は重なりあっていて、必ずしも独立して存在するものではありません。
  • 神経圧迫症状には障害神経支配域に一致した知覚障害、筋委縮があり、血管圧迫症状としては上肢の広汎な疼痛、指尖の疼痛、上肢腫脹、チアノーゼ、脈拍の減弱または消失があります。
  1. 斜角筋症候群 scalenus syndrome
    1. 若い女性に多い。
    2. 斜角筋三角部での狭窄が原因であり、頚肋や斜角筋付着部異常、筋過緊張などによります。
    3. Adsonテスト陽性。
    4. 頚肋切除術、斜角筋切離術を行います。
    5. 斜角筋症候群のイラスト

  2. 肋鎖症候群 costoclavicular syndrome
    1. 肋鎖間隙の狭小化による。
    2. 気をつけ姿勢で橈骨動脈の拍動が減弱します。
    3. 第一肋骨切除を行います。
  3. 肋鎖症候群のイラスト

  4. 過外転症候群 hyperabduction syndrome
    1. 烏口突起下において、小胸筋と胸壁間で神経、血管が圧迫されることにより発生します。上肢の挙上位をとる職業の人に多い。
    2. Wrightテスト陽性。
    3. 小胸筋付着部切離術を行います。

斜角筋症候群徒手検査のイラスト


5.腕神経叢麻痺 brachial plexus palsy

  1. 解剖
    1. 腕神経叢は、第5頸髄神経から第1胸髄神経までが側頸部で神経叢を作るもので(ときに第4頸髄神経あるいは第2胸髄神経が関与)、斜角筋間を出て第1肋骨の前を下に走り、鎖骨の下を通って腋窩に入ります。
    2. 側頸部で上、中、下の神経幹を作り、さらに鎖骨下から腋窩にいたるあいだに、それぞれ前後に分岐を作り腋窩動脈の周囲に外、後、内の神経束を作り、それぞれの末梢神経に移行します。

  2. 麻痺の発生機転
    1. 直接の切創・刺創のほか、神経の過伸展・圧迫などで起こります。
    2. とくにオートバイの衝突、転倒事故など交通外傷に伴って起こることが多い。

  3. 麻痺の型と損傷の種類
    1. 神経の損傷は放置して完全に回復するものから、完全に麻痺を起すものまでさまざまです。神経根の脊髄からの引き抜き損傷は回復しません。
    2. 臨床上、上位型、下位型、全型に分けることができます。
      • 上位型:第5,6頸髄神経あるいは第5,6,7頸髄神経がおかされるもの
      • 下位型:第6頸髄、第1胸髄神経あるいは第7,8頸髄、第1胸髄のおかされるもの
      • 全型:第5頸髄から第1胸髄神経までおかされるもの
      上位型の予後は比較的よい。
  4. 腕神経叢のイラスト

  5. 治療

    麻痺がまったく回復しない場合や、引き抜き損傷では肩関節固定術、移行手術、肋間神経移行術などの機能再建手術が行われます。

    ■神経根引き抜き損傷の診断
    引き抜き損傷は非回復性かつ神経修復不能の損傷で、腕神経叢患者を診たとき、それが引き抜き損傷型ですが、それでも回復を期待してある期間保存療法を行うべき型のものかの鑑別が重要です。

引き抜き損傷のイラスト

この鑑別に役立つものとして以下のものがあげられます。

  1. ミエログラム所見:ほとんど全例に造影剤の漏出像がみられます。
  2. Horner症候群:多くの例で陽性。
  3. 軸索反射試験:引き抜き損傷であれば、損傷部位は後根知覚神経節より中枢側にあるため、末梢の知覚神経線維は節細胞との連絡を保有したままですので、知覚線維にWaller変性が起こらず、軸索は伝導を保有したまま健全である可能性があります。
    ヒスタミンflare testは、ヒスタミン皮内注射によって起こる局所の血管拡張、発赤に囲まれた丘疹の出現です。
    引き抜き損傷では、完全な脱神経領域に本反応が陽性、もしくは、陽性部分と陰性部分の合併がみられることが多い。
  4. 知覚神経活動電位の導出:中枢で刺激を行い末梢で導出する逆行性電位の導出は、知覚神線維にWaller変性が存在するか否かの証明になります。
  5. そのほか、脊髄神経後枝領域の脱神経像や、長胸神経、横隔膜神経のような根近傍より分岐する神経の麻痺の存在で損傷部位を確かめます。

6.分娩麻痺 birth palsy

  1. 原因:分娩時、児頭または肩が産道の狭窄部にとらえられ、腕神経叢に強い牽引力が働いた場合に発生する腕神経叢麻痺です。骨盤位分娩や巨大児で起こることが多い。

  2. 症状
    1. 大部分が上位型(Erb-Duchenne型)で、多くは典型的肢位をとります。すなわち患側上肢は肘伸展位、前腕回内位で体側にだらりと垂れ下がり、いわゆる waiter's tip position をとります。
    2. 運動障害に比し知覚障害がきわめて軽い。
  3. 予後:損傷程度にほぼ平行しますが、一般に上位型は良好で、上位型から下位型(Klumpke型)への麻痺の範囲が広がるにつれてわるくなります。

  4. 治療
    1. 麻痺の初期数日は、神経叢をゆるめるごとき位置、すなわち上腕を外転し、腋窩に綿枕を当てがって90°くらいの角度に固定します。
    2. それ以降は関節拘縮を防ぐことに主眼をおき、他動運動を母親など家族の者に頻回に行わせます。
    3. 上位型の予後は比較的良好で、約2/3は日常生活に支障ない程度の自然回復を期待できます。
    4. 麻痺が残存し機能障害がみられる場合には、年齢を考慮して機能再建手術を行います。

7.五十肩または肩関節周囲炎 frozen shoulder,periarthiritis scapulohumeralis

  1. 概念
    1. 色々な疾患が含まれますが、
      • 40代以降の発症。
      • 結髪、結滞のような肩関節外転・外旋、外転・内旋運動が制限されます。
      • 比較的予後が良好で、多くの場合1~2年以内に寛解する。
      という特徴をもった1つの疼痛症候群です。
    2. 加齢による変性変化によって起こるもので、病理学的には癒着性滑膜包炎、回旋腱板・上腕二頭筋の変性性炎症性変化、肩鎖関節の 変形性関節症などが含まれています。

  2. 症状
    1. いつとはなしに肩関節の疼痛性運動制限、ことに外転・外旋が困難となり、夜間しばしば痛みのために目が覚めます。
    2. ときには急性に発症し、強い自発痛や、肩峰下から大結節にかけて圧痛・発赤・熱感などを生じることがあります。外転制限が著名で、X線写真上しばしば肩峰下外側に石灰沈着が認められます(石灰沈着性滑液包炎bursitis calcarea)。
    3. 上腕二頭筋長頭腱鞘炎があれば、結節間溝に圧痛がみられ、抵抗にさからって前腕を屈曲・回外させると同部に疼痛を生じます(Yergasonサイン)。
      これは上腕二頭筋が肘の屈筋と同時に、前腕に対してもっとも強力な回外筋であるためです。

  3. 治療
    1. 急性発症のもの、たとえば、石灰沈着性滑液包炎に対しては、局所へのステロイドホルモンと局麻剤の注入が有効であり、安静や冷湿布を行います。
    2. 慢性の拘縮が主体となるものに対しては、理学療法がもっぱら行われ、自動運動練習や温熱療法が行われます。

8.肩腱板損傷 injury of the rotator cuff

  1. 青壮年では肩甲部の打撲、あるいは重量物の挙上によって腱板損傷が発生します。中年以降では肩峰とのあいだの摩耗によって腱板の変性があるため容易に断裂します。
  2. 棘上筋断裂がもっとも多い。この場合、90°外転位より下方へは上肢を徐々におろすことができず、急に腕が落下します(Drop arm test)。
  3. 肩関節造影を行うと、造影剤の断裂部ないし肩峰下滑液包への漏出がみられます。
  4. 治療:経度のものは数週間の固定と理学療法、高度のものは手術的に肩峰前下部の切除や、断裂部の修復をします。

肩腱板断裂のイラスト

9.野球肩 baseball shoulder

  1. 繰り返しの投球動作で発生する肩の損傷を総称して野球肩といいます。投球時に疼痛があります。
  2. 骨端線閉鎖前の小児でとくに損傷が起こりやすい。
  3. 肩腱板断裂、肩関節亜脱臼、骨端軟骨傷害、変形性関節症などが含まれます。

10.肘内障 internal derangement of the elbow joint

  1. 小児(6歳くらいまで。2~4歳くらいに多い)の手を引っぱったときに生じます。
  2. 橈骨頸部の輪状靭帯が上方へ亜脱臼するためで、この年代の小児では靭帯が弛く、橈骨頭の発育が不十分なためです。
  3. 子供は突然痛みのため上肢を下垂し動かさなくなります。
  4. 治療:肘を屈曲し、前腕を長軸方向に押しながら回内、回外すると弾発音とともに整復され、患児はすぐに上肢を動かすようになります。

肘内障のイラスト

11.外反肘、内反肘

  1. 外反肘 cubitus valgus
    1. 正常の肘は約10°の外反を示します。
    2. 男性より女性のほうが外反・過伸展が強い。
    3. 主として小児の上腕骨外顆骨折の変形治癒の結果、外反肘が生じます。
    4. 強い外反肘は尺骨神経溝で神経が過伸展されるため、尺骨神経遅発性麻痺の原因となります。

  2. 内反肘 cubitus varus
    1. 正常の肘は軽い外反を示すので、内反肘は程度のいかんを問わずすべて異常です。
    2. 上腕骨顆上骨折の結果生じることが多い。
    3. 強い内反肘は美観を損なうので、骨切り術を施工して矯正します。

12.テニス肘、野球肘

  1. テニス肘(上腕骨外側上顆炎)tennis elbow

    テニス肘、外側上顆圧痛点のイラスト

    1. 上腕骨外側上顆に起始部をもつ手関節伸展の牽引によって起こる骨膜刺激ないし外傷性骨膜炎。

    2. テニス、ゴルフなどのスポーツのほか、主婦が家事で手を使いすぎる場合に発症します。

    3. 上腕骨外側上顆に圧痛があり、手拳を作り手関節背屈・前腕回外に抵抗を加えると疼痛が増強します。

    4. 多くは保存的治療が行われ、副腎皮質ホルモンと局麻剤を混合したものの局注、手関節背屈位での安静などが行われます。

  2. 野球肘 baseball elbow
    1. 野球の投球動作が原因で発症する肘の障害で、テニス肘とは異なり、肘関節の離断性骨軟骨炎、骨棘形成、腱付着部炎、靭帯損傷などがあります。